杉の名前の由来は、すくすくと真っ直ぐに伸びることからきているともいわれています。国内の杉の種類は約300種ともいわれ、有名な秋田杉でも数種類があります。学名は(クリプトメリア ヤポニカ)といいます。その学名からもわかるとおり、杉は日本独特の針葉樹です。
日本で始めての杉の植林は、貞観3年(866年)に茨城県の鹿島神宮の造営用の木材を備蓄するため始まったとされています。
 人工植林には杉の種子から育てる本州などに多い実生林業と、九州地方に多い枝を挿し木にした挿し木林業があります。実生林は個体差があり、挿し木林は均一材に向いていますが、それぞ長所短所があります。また人工植林された杉と天然杉は育った環境(地域のほか、山の尾根や谷)などにより、成長の度合いで材質に大きな違いがでてきます。同じ径の大きさでも人工林の杉と天然杉とでは年輪にも大きな差があり、人工林は間伐や枝打ちなどの管理で天然杉に比較して成長が早いのが特徴です。天然杉は成長が遅いために木目が緻密で高級建材や工芸品として珍重されています。杉には芯材の赤いものと黒いものがありますが、黒い杉は含水率が多くて乾燥の時間にも差が出ます。杉は建材としては耐久性もあり、優れた建材として見直されています。
 最近、杉花粉でアレルギーを起こす人が多くなっていますが、建材にすれば香りも良く、アレルギー体質には優しい建材とされています。杉は一般に均一の材質ではなく、使いこなすには職人さんの技術も必要になってきます。
 現在は戦後に奨励された植林により、多くが建材などの製品として使用できる時期を迎えていますが、その後、外材の輸入増加による需要の減少や山間地の過疎化に伴い、林業に携わる人が少なく、杉の枝打ちや間伐などの手入れが行き届かなくなり、また伐採しても、その後の植林に支障をきたしているところもあり、山は次第に荒れつつあります。森は保水力に優れていて自然のダムともいわれ、針葉樹の杉林は涵養林としては広葉樹林の保水力には及びませんが、伐採や植林には今後何らかの対策が必要になってきそうです

■ 秋田(あきた)杉 (秋田県)
 天然秋田杉が有名です。1602年、藩主(佐竹義宣)が育成管理に当たらせ、現在樹齢250年を超えるものもあり、天然記念物にも指定されています。。日本三大美林にかぞえられいますが、現在は枯渇寸前で植栽が行われています。桶や樽材としても珍重され、昔から天井板や腰板等にも多く利用されてきました。優美な色と香りが特徴で高級建材として珍重されています。秋田県の県木に指定されています。

■ 山武(さんむ)杉  (千葉県)
 千葉県山武市を中心とする北総地域に産する杉で、1700年代より挿し木で育成された杉で200年〜300年を超える杉もあり、通直で赤みが美しい。樹齢70〜80年の美林も管理されており、高級建材や建具材としても有名です。

■ 天竜(てんりゅう)杉 (愛知県・静岡県)
 天竜川沿いには古くから植林された人口美林が多く、日本三大美林にも数えられています。天竜川水系に育まれた杉は独特の色合いと艶を有します。構造材や腰板・甲板などのほか、近年はログハウス用の建材としても珍重されています。

■ 立山(たてやま)杉 (富山県)
 
立山の麓に産する樹齢200年から600年といわれる天然杉、中には1000年を超える古木もあります。美女平の立山杉が有名、別名「洞杉」ともよばれ、その姿は神々しいばかりです。一部が高級工芸品等に使用されて、富山県の県木にも指定されています。
 
■ 北山(きたやま)杉 (京都市)
 室町時代から京都市北部に林業として始まったと言われ、通直で木肌が美しく亀裂が入りにくい。一般の杉丸太に比べ曲げ性能も強く、磨き丸太として数寄屋造りや床柱などの需要が多い。京都府の県木に指定されています。

■ 熊野(くまの)杉 (和歌山県・三重県))
 
和歌山県と三重県を流れる熊野川流域に産する杉で、紀の国(木の国)と言われるように昔から杉や檜の美林が多い。紀州の温暖多湿な気候で育った熊の杉は樹齢800年を超えるものもありますが、多くは植林された70〜80年ものが高級建材や樽材としても使用されている。熊の杉の林立する熊の古道は2004年に世界遺産に登録されています。ちなみに伊勢神宮の境内に林立する「神宮杉」は三重県の県木に指定されています。

■ 吉野(よしの)杉 (奈良県)
 奈良県の南部が産地で室町時代から植林され、木曽檜と共に日本三大美林の一つとして有名。昔は樽丸材としても珍重されていました。木目が蜜で香りもよく、工芸品や通直で長尺の構造材にも適しています。杉は奈良県の県木に指定されています。

■ 春日(かすが)杉 (奈良県)
 奈良春日大社境内の春日山の杉で古くからの植栽樹です。春日山の原始林は天然記念物であり、伐採は禁止されている。まれに風倒木や立ち枯れものが利用されている。芯は赤身で緻密な年輪と笹杢と呼ばれる木目が美しく、高級品でとして天井板や落掛、工芸品などにも用いられています。

■ 相生(あいおい)杉 (徳島県)
 四国徳島県相生町(現在は那賀町)地方の杉、赤身が非常に強くて最も杉らしい天然杉で、建材として珍重されています。ちなみに京都の貴船神社の「相生杉」のように「夫婦松」と同様に、途中で幹が二本に分かれた杉も意味は違いますが、「相生杉」と呼んで夫婦和合の神木として有名なものもあります。

■ 魚簗瀬(やなせ)杉 (高知県
 高知県馬路村で産出される。「土佐杉」とも言われ江戸時代から朝廷や幕府献上用にも使われ、京都二条城や江戸城の築城にも用いられています。淡紅色で樹脂が多く天井板の他、高級建材として人気がある。高知県の県木に指定されています。

■ 日田(ひた)杉 (大分県)
 
大分県日田市の「日田杉」をはじめ県境で接する熊本県小国町に産する「小国杉」、福岡県の筑後地方の「耳納杉」なども一般的には日田杉と称して差し支えないようです。建材はもちろん、日田市では日田杉を使用した「杉下駄」の生産量全国一を誇っています。挿し木を植栽した人工林の美林が多く見られます。この地方では、風雪に耐えて育った天然杉の古木を親しみを込めて「いんたろう」と呼んで高級建材としても珍重されています。

■ 飫肥(おび)杉 (宮崎県)
 
宮崎県飫肥地方に約400年前(1600年)の江戸初期に藩財政を立て直すため直挿しで植栽したと伝えられています。樹脂を多く含み耐久性・強靭性がある。特に心材、赤身の部分は虫害にも強く弁甲材(造船用)としても重用され、現在は高級建材とし需要が高い。又、西臼杵郡の標高1000m程の高原から産出する木目の緻密な「高千穂杉」も有名です。

■ 霧島(きりしま)杉 (鹿児島県)
 霧島山麓に産出する杉で樹齢数百年を超えるものも多く、芯は黄褐色や赤褐色、木目は笹目で高級品として天井板や腰板に重宝されています。
 
■ 屋久(やく)杉 (鹿児島県)
 屋久島で天然記念物の樹齢7200年といわれる「縄文杉」をはじめ樹齢1000年以上の杉を「屋久杉」と呼び1千年未満のものは「小杉」と呼び、植林されたものは「地杉」と呼びます。屋久杉は成長が遅く高温多湿のため樹脂が多く、腐食にも強く独特の香りがあり。主に建築の装飾や高級家具の材料として使用されています。屋久島は1993年に世界遺産に指定されています。

■ 神代(じんだい)杉
 800〜2500年前の火山の噴火で火山灰に埋没して半分化石化した杉を採掘したもので、主に秋田・山形・伊豆半島などで採掘されています。独特の色相から建築の装飾や工芸品に使用されています。

杉 の 話

  

 杉は産出地域によって地域名称がつけられています。日本各地のおもな杉には、それぞれの歴史と特徴があります。

監修 : 有限会社 マルシチ